家庭裁判所を利用する主なケースとは?
相続の手続きは一般的に「遺産分割協議」や「相続登記」などを中心に進められますが、相続人間で意見が合わない場合や、法的な判断を要する場面では、家庭裁判所が介入するケースが多くなります。
まず最も多いのが「遺産分割調停」です。これは相続人同士で遺産の分け方について合意できない場合に、家庭裁判所へ調停を申し立てる手続きです。第三者である調停委員が双方の主張を聞き、公平な解決策を模索します。調停が不成立となれば、「審判」に移行し、裁判官の判断により分割内容が決定されます。
次に多いのが「相続放棄」の申述です。これは被相続人の借金や負債が多い場合、相続人が相続の権利を放棄するために、家庭裁判所へ申立てを行うものです。原則として、相続開始から3か月以内に申立てを行わなければ、単純承認とみなされ、すべての財産(プラス・マイナス)を受け継ぐことになります。
また、「遺言書の検認」も家庭裁判所が関与する重要な手続きです。特に自筆証書遺言が発見された場合には、開封する前に家庭裁判所での検認手続きが義務付けられています。この手続きを怠ると遺言書の効力が無効になることもあります。
さらに、相続人に「行方不明者」や「認知症患者」がいる場合には、「不在者財産管理人」や「成年後見人」の選任を家庭裁判所に申立てる必要があります。これにより、全相続人の意思決定が法的に整えられ、遺産分割協議の成立が可能になります。
これらの申立てはすべて「家庭裁判所の管轄」によって手続きを行う必要があります。管轄は、原則として被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。申立て時には各家庭裁判所で求められる書類や費用が異なる場合があるため、事前に確認しておくことが重要です。
相続の流れと家庭裁判所が関与するタイミング
相続の流れは一般的に次のようなステップで進行しますが、その中でも特定の場面で家庭裁判所の手続きが必要になることがあります。読者の皆さまがスムーズに対応できるよう、家庭裁判所の介入が求められるポイントを段階ごとに解説します。
【相続手続きの主な流れ】
- 死亡届の提出と火葬・埋葬(行政手続き)
- 遺言書の確認・検認(家庭裁判所が関与)
- 相続人の調査と確定
- 財産調査と相続財産目録の作成
- 相続方法の選択(単純承認・限定承認・相続放棄)
- 遺産分割協議
- 相続登記・預貯金解約・名義変更等の実行
- 相続税の申告と納付(相続開始から10か月以内)
特に2番目の「遺言書の確認」では、自筆証書遺言が見つかった場合には「家庭裁判所での検認」が必要です。封を開ける前に申立てを行い、内容の確認と手続きが必要です。
また、5番目の「相続方法の選択」において、相続放棄を行う場合も、家庭裁判所に対して相続放棄の申述を行わなければなりません。相続放棄には期限があり、被相続人の死亡を知った日から3か月以内に申立てなければ、放棄が認められません。
6番目の「遺産分割協議」が不成立の場合には、家庭裁判所に対して「遺産分割調停」の申立てを行います。これにより、中立的な調停委員が入り、解決に向けた助言や提案が行われます。それでも合意に至らなければ、「審判」へと進み、裁判所が遺産の分け方を決定します。
相続放棄・遺言書検認など家庭裁判所が必要な相続手続き
相続人が相続する財産に借金や負債が多いと判断した場合、「相続放棄」を選択することができます。また、自筆証書遺言が見つかった場合は、そのまま使用することはできず、「検認」と呼ばれる手続きを家庭裁判所で行う必要があります。これらの手続きは、どちらも家庭裁判所への申立てが必須であり、提出期限や必要書類、申立ての流れを把握しておくことが重要です。
まず、「相続放棄」は、相続開始を知った日から3か月以内に、被相続人の住所地を管轄する家庭裁判所へ申述しなければなりません。この期間を過ぎると、法律上「単純承認(すべてを引き継ぐ)」とみなされ、借金も含めた相続が成立してしまいます。
一方で、「遺言書の検認」は、主に自筆証書遺言に限り必要となる手続きです。見つけた時点で家庭裁判所に申立てを行うことが求められます。
手続き項目 |
相続放棄 |
遺言書検認 |
対象 |
借金や負債の多い相続の場合 |
自筆証書遺言が発見された場合 |
手続き期限 |
相続開始を知ってから3か月以内 |
発見後速やかに |
提出先 |
被相続人住所地の家庭裁判所 |
被相続人住所地の家庭裁判所 |
主な必要書類 |
相続放棄申述書、戸籍謄本、住民票除票など |
申立書、遺言書原本、相続人全員の戸籍謄本等 |
注意点 |
3か月を過ぎると放棄が認められない |
開封厳禁。家庭裁判所を通じて開封・確認する必要がある |
特に相続放棄は、一部の相続人のみが行う場合でも、その影響が全体の相続構成に大きく及びます。
これらの制度を正しく活用することで、相続人が不利益を被るリスクを回避し、スムーズに相続手続きを進めることが可能になります。